이름 존나 기네요, 즉사마법 [데스]밖에 사용할 수 없는 마법사의 궤적으로가죠
1.まるで成長していない
世界を滅びへと導くという魔王。
長い時が流れて世界中の誰もが、おとぎ話の存在として忘れかけようとしていた。
しかし、魔族だけは魔王の復活を静かに待ち焦がれていた。
その願いに応えるかのように500年の時を経て、魔王は長き眠りから目覚めた。
しかも以前とは比べ物にならない力を持って復活を遂げる。
その圧倒的な力で、世界の勢力図は塗り替えられていった。
わずか数年で世界の半分以上が制圧されてしまう。
4つあった大国は次々と滅ぼされて、あとは聖国セイファートを残すのみ。
魔王が率いる魔の軍勢は止まることを知らず。
人知を超えた力を持っており到底敵わない。
追い詰められた人間に為す術はなく。
死を受け入れるか、逃げ惑うしかないと思われていた。
だが、希望はまだ残されていた。
聖国には、受け継がれし伝承がある。
魔王と対となる存在だ。
世界の危機を成す魔王が現れるとき、世界を救う勇者もまた目覚めると。
半信半疑だったおとぎ話は、魔王軍の侵攻が聖国に及んだとき、真実だと証明される。
魔王軍に襲われた小さな村。そこに住まう青年エヴァンが、力に目覚めたのだ。
彼は、襲いくる魔王軍の尖兵たちを屠ってみせた。
その手には、黄金に輝く聖剣が握られていた。
駆けつけた聖国軍の騎士団長は、エヴァンの戦う姿を見て息を呑んだ。
そして、彼こそ我々が求めていた者。
魔王に対抗できる唯一の存在。
聖剣に認められし伝承の勇者だと確信する。
すぐさま聖国の王に進言。
エヴァンはみごと勇者として認められ、世界を救うために旅立つことになる。
その始まりの旅立ちには、仲間が一人だけ同行していた。
初めて魔王軍と戦った際に、エヴァンに力を貸した魔法使いクラリスだ。
彼女はレベル1にして高位魔法――即死魔法【デス】を扱うことができた。
通常なら高レベルまで上げていかなければ、決して覚えられない魔法。
それを知った王は、勇者と共に優秀な人材を得たと喜んだ。
このままレベルを上げていけば、必ずや勇者の支えとなる。
稀代の大魔法使いに成長すると褒め称えた。
喜び勇んだ王はその場で、勇者パーティーにクラリスを加えることを命ずる。
そして、クラリスは勇者の幼馴染でもあった。
かくして勇者の旅は始まる。
その道中、勇者パーティーは順調に増えていった。
酒と戦いをこよなく愛する大戦士のおじさん。酒癖は悪いが、戦いの熟練者でクラリスと共にパーティーのレベルアップに貢献した。
転職神殿で運命的な出会いをした聖女。彼女は勇者に神の導きを伝え、歩むべき道を示した。
さらに回復役としてパーティーの要にもなった。
最後に加入したのが遊び人。
彼女はパーティーのムードメーカー。
それ以外はまったく役に立たない。
戦いなんてなんのその。
いかなる時も常に遊んでいる。天職通り、紛うことなき天性の遊び人だった。
大戦士やクラリスはまったく役に立たない彼女に戸惑いをみせた。
しかし聖女からは、将来有望という神託を得ている。
そのため、現状を保留して、クラリスたちは遊び人の成長を見守ることになった。
何はともあれ、パーティーのメンバーが充実したことにより、積極的に魔物を討伐していった。
その中でもっとも活躍したのがクラリス。
彼女の即死魔法は、一撃必殺。
簡単に魔物たちを倒せるため、パーティーのレベルアップに大きく貢献することになる。
楽勝の一言。
実に順風満帆の旅だった。
さくさくとレベルが上がっていく。
異変が起きたのはレベル20を超えた頃だ。
パーティーでのクラリスの立場は一変する。
いやその前から、彼女の居場所は少しずつなくなっていたのかもしれない。
それは遊び人が賢者へ転職したことがきっかけで大きく動き出す。
月が高く昇った深夜、クラリスは人気のない路地裏に呼び出されていた。
明日は東にある古城に巣食う魔物の討伐が控えていた。そこには魔王の力により強化された魔物のボスがいるという。
初めてのボス戦にパーティーの皆は緊張していた。
しばらくして月明かりの下、待ち人が現れる。
その人は賢者マーテル。青い髪をなびかせながら、かなり遅れてやっていた。
最近になって遊び人のレベルが20となり、転職神殿で賢者になっていた。
まさか遊び過ぎで悟りを開いて、賢者になれるとは誰が予想できようか。
それはクラリスたちにとって、驚愕の転職だった。
以来、肌の露出度の高い服から、分厚いローブに様変わりしている。
性格もチャラチャラして軽かった。それが眼鏡をかけて知識人のように振る舞うようになっていた。
彼女の過去を知っているクラリスからすると、なんだかそれが鼻につく。 散々パーティーに迷惑かけておきながら、感謝もせずに今では勇者に寄り添い、参謀役になろうとしている。
クラリスは彼女を見て、ため息をついた。
勇者が来ると思っていたからだ。いつもの相談だろうと、急いでやっていたのにあてが外れしまった。
「私でごめんなさいね」
マーテルは一言謝りを入れる。
だが、悪びれた素振りもなく、淡々としていた。
「勇者様は来ないわ」
「なぜボクに嘘を?」
クラリスは宿の店主からの伝言で、勇者から呼び出されたと思っていたからだ。
蓋をあけてみれば、まんまと賢者に騙されていた。
「私とあなただけで、大事な話をしたいからに決まっているでしょ」
マーテルは不敵な笑みをこぼして、クラリスに近づく。
「一つ聞いてもいいかしら?」
彼女は更に接近した。
そして、クラリスを舐めるように上から下まで、見回す。
「私は賢者になって数多の魔法が使えるようになった。クラリスはどうかしら? 王様からは稀代の魔法使いになれるとか、言われていたらしいけど」
「そ、それは……」
答えるまでもなかった。
ここまで共に戦ったパーティーなら誰もがわかりきっていることだ。
未だクラリスは即死魔法しか使えない。
マーテルは知っている上で、わざと言っているのだ。
そして、大袈裟に天を仰ぎながら言う。
「どうしたことでしょう。明日は大切なボス戦なのに、クラリスはまるで成長していない!!」
「くっ」
「もう一度言うわ。まるで成長していないっ!!」
クラリスの顔は屈辱に満ち溢れていた。それを満足そうに見て、マーテルは続ける。
「これでは勇者様がかわいそうです。使えない魔法使いに足を引っ張られて、もしお怪我を……いいえ、もし命を脅かされることがあったら……。そう思うと夜も眠れません」
「……」
「あらあら、もしかして何も言えないのかしら」
真実である以上、言い返せないクラリス。
俯いて地面の石畳を見つめることしかできずにいた。
「あなたの魔法は馬鹿の一つ覚え。遊び人だった頃の私が、横で踊って魔物を引き付けていたほうがまだいいわ」
「遊び人以下……」
「勇者様も失望されているでしょうね。初めてのパーティーメンバーがたった一つの魔法しか使えない魔法使いだったなんてね。勇者パーティーの恥だわ」
たった一つの魔法。
それしか使えないという現実。
この世界ではレベルを上げて、多くの魔法が使えるほど優秀とされている。手数が多いほうが戦いにおいて、臨機応変に対応できるからだ。
「私は攻撃魔法もたくさん使えるから、もうあなたはいらないと思うのよ。それにね。集めた情報によると、なんとボスには即死魔法が通用しないみたいよ。ねぇねぇ、あなたって必要なのかしら」
「即死魔法が……効かない……」
「ほら、こういうことね」
そう言って、マーテルは胸元から輝石が埋め込まれたペンダントを取り出した。その輝石は青く透き通っており、月明かりを浴びてとてもきれいだった。
「これはね。セラフィムの涙といって、即死ガードの力を秘めているの。つまり、今の私はボスと同じってこと。試してみる?」
「何を?」
「わかりきったことじゃない。私に即死魔法を使って、殺せたら認めてあげてもいいわよ」
「な、何を言っているの!」
「大丈夫よ。もしも、もしも死んでしまっても、聖女の蘇生魔法で生き返らせてもらえばいいだけだし。ねぇ、どうする?」
口ではそう云うが、行動は違っていた。
マーテルは左手でクラリスの髪を鷲掴みにして、右手で手を握りしめた。
鈍い音が路地裏に響き渡る。
腹部へのあまりの衝撃にクラリスがしゃがみこんでしまった。なんとか痛みを抑えて顔を上げると、
「これから、私がパーティー加入の再試験をしてあげる。ほら、あなたってそういうことしていないでしょ? これは賢者様からの善意だからね」
足蹴りが何発もクラリスに叩き込まれる。
そのたびに鈍い音が路地裏に木霊する。
一方的なものだった。
このような状況なのに、様子を見に来る者が現れることはない。
ここは路地裏だ。
酒に酔った者同士がよく喧嘩をする場所でもある。周りに住まう者たちは、今日もそれが行われているのだろうと思っているのだ。
それを見越してマーテルはクラリスをここに呼び出していた。
攻撃魔法は使わない。
使えば、大きな音が出る。
ただの喧嘩とは扱われなくなってしまうからだ。
「ほら、どうしたの? 攻撃してみなさいよ。防戦一方じゃない。力もないのね。これじゃ、勇者様の荷物持ちも失格ね」
このままでは、死ぬかもしれない。
クラリスは、たまらず即死魔法を放ってしまう。
「デス!」
マーテルに何も起きなかった。
途端に彼女の顔がにやける。
「使っちゃったね。そして私は死んでいない。いいわよ、もっと使って。セラフィムの涙ではなく、確率の問題だったのかもしれないから」
即死魔法は必ず相手を殺すわけではない。
確率だ。
それは使い手と相手の実力差によって変わる。大きく開いていれば、確率はどんどん下がっていく。
「あなたは魔力量だけはとても多いでしょ。たくさんデスしてもいいのよ。さぁ、どうぞ!」
「この……どうなっても知らないんだから」
クラリスは大きく息を吸い込んだ。
「デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス、デス……デスっ!」
「はい、残念でした」
即死魔法【デス】の猛攻を受けたが、マーテルはとても元気だ。
その反対に魔力を大きく消費したクラリスは、息切れして座り込んでしまった。
「結果は出たわね。即死耐性があるボスにあなたはいらない。私がいればいい。なら、これもいらないわね」
そう言ってクラリスが持っていた聖杖――プロテウスを力任せに奪った。
「それは……王様から頂いた大事な聖杖……」
「だからよ。私がこの聖杖プロテウスを有効に使ったほうが王様は喜ぶわ。賢者に転職して、良い杖が欲しかったところなの。丁度いいところにあったわ。ありがたく使わせていただくわね」
マーテルは奪った聖杖を振るってみせる。
「いい感じ。やっぱり私にこそ、この聖杖を使う資格があるわ」
もう自分の物とばかりに高らかに掲げた。
そして、聖杖の先をクラリスへと向ける。
「たった一つの魔法しか使えない魔法使いなんて、勇者様のパーティーには必要ないわ。力もないから、荷物持ちもできないしね」
「マーテル……あなたって人は」
「この街にいられても困っちゃうし。これから転移魔法で、あなたをどこか遠く……私も知らない場所へ飛ばすわ。きっと楽しい旅になるわよ。勇者様たちには、ちゃんと伝えておいてあげる。身の程を知って、自ら身を引いたってね」
転移魔法を詠唱し始めるマーテル。
満面の笑みでクラリスへ、それを向けた。
最後に皮肉いっぱいで言い放つ。
「さようなら、デス子ちゃん。バイバ~イ!」
クラリスは光りに包まれた後、忽然として姿が消えた。
静まり返った路地裏。
そこには、うっとりしながら聖杖を見つめるマーテルだけが佇んでいた。
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