第185話 飛空艇エンデバー
飛空艇の甲板の上。
俺の両脇にはロキシーとマインが控えている。
彼女たちもライブラに訊きたいことがあるようだった。
「ようこそ、僕の自慢の飛空艇エンデバーに!」
ライブラは両手を広げて、俺たちを笑顔で歓迎してくれる。
内心は同じかわかないが。
「マイン、久しぶりだね。僕のことは覚えているよね」
「当たり前。生きていたのか……てっきり死んだと思っていた」
「おかげさまで深手を負ったからね。ずっと治療していたんだよ……そう、呆れるほど長い時間をね」
「本当に?」
「僕が嘘を付くわけないだろ。これでも、神から直接庇護を受けた民なのだからさ。マインは知っているだろ? ああ……嘘つき呼ばわりは心外だな」
マインとライブラには面識があった。
彼女は途方も無い時を生きてきたし、大罪スキル保持者だ。
ライブラとの衝突が過去にあってもおかしくはない。
マインはぷいっと顔を背けて、ライブラを無視してしまう。
「あらら、嫌われているね。変わらないな君は……」
彼はこれ以上、マインとの会話が成立しないと判断したようだ。
今度は天使モードのままのロキシーに向き合う。
「これはこれは、ロキシー・ハート。スノウと同化できるとは、誇っていいよ。君のおかげで、聖獣アクエリアスは落とされてしまったとも言えるし。こればかりは僕の読み違いだった」
「褒めてもらえていると受け取ってよいでしょうか?」
「もちろん。聖剣技スキルの因子を持ちながら、よくここまで清廉潔白に……素晴らしいよ、君は」
「因子?」
「あれ? エリスから聞いていなかったのかい? 君たち聖騎士は僕ら聖獣人がほんの少しだけ力を分け与えた人間なんだよ。君はその子孫ということになるね」
「聖獣人から力を?」
「ああ、そうだよ。ほら、僕たちはそれほど多くない。手足となって働く者が必要だったわけさ。それが聖騎士だね。しかし、力の反動か、どうしても精神に問題があったんだよ」
「聖騎士たちに卑劣なことを好む者が多い原因は……まさか……」
ロキシーはひどく驚いていた。
「僕たちが分けた力と一緒に思考も分け与えてしまった。あれは失敗だったよ。初期の聖騎士は本当に残忍の一言だった」
ため息を付きながら、ライブラは困ったように言っていた。
「でも君を見ていると安心したよ。代を重ねたことで、とても安定したものになっている。この戦いが終わって、もし僕に仕えたいなら言ってくれ」
「結構です。私にはこれから先、ずっと守るべきものがありますので」
「あらら、それは残念。良い素体なのにもったいない」
舐めるような目でライブラはロキシーを見ていた。
初めて会ったときには気にもとめて無かったのに。
天使モードになれたことで、評価が反転したようだ。
俺としてはこれ以上ロキシーに要らぬことを言ってほしくない。
「共闘が目的なのに、不協和音をお前が作ってどうする」
「あははっ、これは失礼。良い人材には目がないんだ。特に聖騎士となれば尚更だね」
ライブラはなぜか聖騎士にこだわっているようだ。
しかも、聖獣人との同化に適応した聖騎士にだ。
「さてと、行くかい? それとも、もう少しここでまったりとしていくかい?」
「行くに決まっている」
「そういうと思ったよ。なら、出発しよう」
空中に停泊していた飛空艇。
それがライブラの言葉をきっかけに進路を百八十度回転させた。
「誰に操縦させているんだ?」
「僕だよ。僕の意思を読み取って動くんだよ」
「えっ……そんなことができるのか」
甲板にただ立っているだけにしか見えない。
飛空艇の気配を探ってみる。甲板にいる俺たち以外、誰一人いない。
そうなればライブラの言う通りだろう。
「僕が何かあれば、この飛空艇は墜落するから、気をつけておくんだね。まあ、君たちなら、それくらいで死ぬことはないだろうけど」
ライブラは俺たちに背を向けた。
「明日の朝には、ガリア大陸に到着する。それまではゆっくりと休んでおくといい。僕は船長室にいるから、気が向いたら会いに来てくれ。後のことはエリスに任せるよ」
それだけ言い残すと、ライブラは船内へ消えていった。
エリスがぽつんと立っていた。
「おい、エリス! しっかりしろ!」
肩を掴んで揺さぶるが、反応なし。
何かによって、思考を閉じられている感じだ。
「マイン、どうにかならないか?」
「う~ん、これは無理。こうなったエロは人形。せっかくケイロスによって解放されたのに、また昔に戻るとは……脇が甘い」
マインはエリスの首を指差した。
首輪のような入れ墨が施されている。
「これを解かない限り、無理」
「どうやって解くんだ?」
「だから、私は知らない。知っているのはライブラ……そしてそれを解いたことがあるケイロスだけ」
ケイロスか……。
マインの過去で邂逅してから、会っていない。
精神世界もルナが逝ってしまってから、行くことができなくなってしまったし。
会えるものなら、もう一度会いたいのだが……こればかりは俺の意思でどうこうできるものではなかった。
彼は別れるときに俺の胸を指差して、「お前の中にいる」と言っていた。
それが本当なら、また会えるかもしれない。いつかはわからないけど。
俺たちが話している横で、ロキシーがエリスに声をかけていた。
「エリス様、しっかりしてください」
「……」
相変わらずの反応なし。
とりあえず、ライブラが言っていたように聞いてみるか。
「俺たちの案内してくれるんだろ?」
「……はい。その命令は受けています」
なるほど、ライブラの命令しか従わないわけか。
おそらく、部屋への案内以外は言うことを聞かないようにしているかもしれない。
「こちらへ」
エリスはお淑やかな身のこなしで、俺たちを誘導する。
えええっ、お前はこんな感じではないだろ! とツッコミを入れたくなってしまうほど別人だった。
ライブラとは違う入り口から船内へと入っていく。
「これは優しい質感の船内ですね」
「はい、外観が金属で味気ないため、内装は木をふんだんに使っております」
俺はてっきりガリアの研究所のような何もかも真っ白な空間を予想していた。
まさか、これほど落ち着いたものとは思わなかった。
どこぞの聖騎士の屋敷のような装飾だ。
足元には赤い絨毯が敷かれており、木目の壁の色合いを引き締めている。
「客間はたくさんありますので、ここにある部屋のどこでも使っていただいて構いません。何か用がありましたら、部屋に取り付けられたコールボタンを押してください」
「エリス、待って!」
「……」
案内は終わったとばかりに、エリスはそそくさと歩いていってしまった。
残された俺たちは通路からいくつかの部屋のドアを見渡す。
ロキシーも同じようにしていた。
「部屋をどうしますか?」
彼女の問いに、マインが即答する。
「同じ部屋がいい」
「俺もそうしたほうがいいだろう」
「そうですよね」
バラバラになってしまえば、これからのことを話し合えない。
何かあったときの対応も、離れていれば遅れてしまう。
俺たちは部屋を一つずつ見ていき、一番広そうな部屋を選んだ。
「ここにしよう。ベッドが四つもあるし。これなら一人ずつでも余る」
「これなら、ゆっくりと寝られる」
マインはすでに寝るつもりらしい。
さすがは戦いの申し子。どんな状況でもしっかりと休息を取る。
武人として、大切なことだ。アーロンもマインの姿勢を褒めていた。
マインはスロースを壁に立てかけると、早速ベッドに飛び込んだ。
そして時間にして、三秒も経たないうちに爆睡。
これには俺も呆れてしまう。
一緒に旅をしていた頃よりも、眠りが早いぞ!
ロキシーは啞然としながらも、感心していた。
「すごいですね」
「寝付きはいいんだけどさ。寝起きは最悪なんだよな」
「なら、少しだけ話しませんか?」
「う~ん、そうだな」
マインのことだ。寝ていても、いざという時に自分で何とかするだろう。
それに、俺もロキシーと少し話したかった。
彼女に誘われるまま、俺は来た道を戻って甲板を目指した。
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即死魔法【デス】しか使えない最弱で最強の魔法使い ~まるで成長していないと勇者パーティを追放されたので、最強の使い魔たちと自由に生きます~
신작으로 넘어갔네여
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